従業員サーベイでわかる離職のサイン:データ活用の実践
はじめに:サーベイデータ活用の重要性
多くの企業で従業員サーベイが実施されています。しかし、その結果を単なる現状把握に留めてしまい、離職率低下という具体的な成果に結びつけられていないケースも少なくありません。従業員サーベイデータは、従業員の意識や職場の実態を把握する強力なツールであり、データに基づいた分析を行うことで、離職のサインや潜在的なリスク要因を早期に発見することが可能です。
本稿では、人事担当者の皆様が従業員サーベイデータを離職率低下に効果的に活用するための具体的なステップと分析の視点、そして分析結果を施策に繋げる方法について解説します。データ分析の専門知識がなくても理解できるよう、平易な言葉で説明を進めます。
従業員サーベイが示す離職予兆のサイン
従業員サーベイの結果には、離職に繋がる可能性のある様々なサインが含まれています。代表的なものとして、以下のような項目が挙げられます。
- エンゲージメントの低下: 会社や仕事への熱意、貢献意欲が低い状態は、別の機会を探す動機になり得ます。
- 職務満足度の低下: 仕事内容、報酬、人間関係、キャリアパスなどに対する不満は、離職を直接的に引き起こす要因です。
- 組織風土への不満: 上司との関係、同僚とのコミュニケーション、評価制度、社内政治など、組織全体の雰囲気や仕組みに対するネガティブな感情も影響します。
- 成長機会の欠如: スキルアップや昇進の機会がないと感じている従業員は、外部に成長の場を求める傾向があります。
- ワークライフバランスの問題: 長時間労働や柔軟性のない働き方への不満も、離職の大きな要因の一つです。
これらの項目に対する回答傾向や、時系列での変化を追跡することで、個々の従業員や特定の部署、層における離職リスクの予兆を捉えるヒントが得られます。
サーベイデータを離職率分析に活用するステップ
サーベイデータを離職率低下に繋げるためには、以下のステップでデータ活用を進めることが有効です。
ステップ1:データの収集と準備
まずは、過去数年分の従業員サーベイデータと、同時期の従業員属性データ(部署、役職、勤続年数、年齢など)および離職データ(離職者、離職日)を収集します。サーベイデータと他のデータを紐付けられるように、各従業員にユニークなIDが付与されているか確認してください。データが複数のシステムに分散している場合は、統合的なデータベースやスプレッドシートに集約する必要があります。
ステップ2:データの可視化と傾向把握
収集したデータを部署別、勤続年数別、役職別などの切り口で集計し、基本的な統計量(平均値、中央値、標準偏差など)や分布を把握します。サーベイ項目の満足度やエンゲージメントスコアの推移をグラフ化することで、全体や特定のグループにおける傾向や変化を視覚的に捉えることができます。
ステップ3:離職者と非離職者のサーベイ結果比較
離職した従業員グループと、同時期に在籍していた非離職者グループのサーベイ回答を比較分析します。特定のサーベイ項目において、離職者グループの平均スコアが非離職者グループよりも著しく低い場合、その項目が離職と関連性が高い可能性があります。例えば、「上司との関係性」の満足度が離職者で低い傾向が見られる、といった分析結果が得られます。
ステップ4:他の人事データとの組み合わせ分析
サーベイデータ単独での分析に加え、人事評価データ、勤怠データ、研修受講履歴データなど、他の人事データと組み合わせて分析することで、より多角的な視点が得られます。例えば、低評価が続いている従業員のサーベイ回答、残業時間が極端に多い従業員のサーベイ回答などを分析することで、リスクの高い従業員層を特定したり、離職の複合的な要因を特定したりすることが可能になります。
ステップ5:関連性の高い要因の特定(相関分析などの活用)
統計的な手法を用いることで、どのサーベイ項目や他の人事データが離職と高い関連性を持つかを明らかにできます。専門的な分析ツールや統計ソフトウェアがなくても、表計算ソフトの機能(相関分析など)や、簡単な集計・クロス集計でも有用な知見が得られます。例えば、「職務満足度」や「成長機会」のスコアが低い従業員ほど、離職率が高いといった定量的な関連性を見出すことができます。
分析結果から具体的な施策に繋げる
データ分析で得られた知見は、具体的な離職率低下施策の立案に不可欠です。
- 課題領域への介入: 分析の結果、「上司との関係性」が離職と関連が深いと判明した場合、管理職向けのコミュニケーション研修や1on1ミーティングの質向上施策などを実施します。
- 高リスク層へのアプローチ: 特定の部署や役職、勤続年数で離職リスクが高いことが分かった場合、そのグループに特化した面談やキャリア支援、労働環境の改善を行います。
- サーベイ項目の改善: 特定のサーベイ項目で全体的に満足度が低い場合は、それが示す課題(例:報酬、評価制度、福利厚生など)の根本的な見直しを検討します。
- 効果測定: 施策実施後、再度サーベイを実施したり、離職率の推移を追跡したりすることで、施策の効果をデータで検証します。効果が見られない場合は、データに基づき施策を改善します。
重要なのは、分析結果を単なるデータとして終わらせず、「なぜその結果になったのか」「その結果からどんな行動が必要か」を深く掘り下げ、現場レベルで実行可能な具体的なアクションプランに落とし込むことです。
まとめ:データに基づいたサーベイ活用で離職を防ぐ
従業員サーベイデータは、組織の健康状態を示す重要な指標であり、離職率低下のための宝庫です。データ分析の専門家でなくとも、基本的なステップを踏まえ、他の人事データと組み合わせることで、離職の予兆や要因を特定し、効果的な施策を立案・実行することが可能です。
ぜひ、貴社で眠っているサーベイデータを掘り起こし、本稿でご紹介した視点やステップを参考に、データに基づいた離職率低下戦略の実践を始めてみてください。データは、人事の意思決定に確かな根拠を与え、組織全体のエンゲージメント向上と離職率低下に貢献する強力な推進力となります。